スグルのメモ帳(私って何―自己と社会を知りたい―)

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「オウム真理教」の解散命令請求 記録廃棄というニュースの雑感

NHKニュースと弁護士ドットコムによると、「オウム真理教」と「明覚寺」の解散命令請求に関係する資料の記録がすべて廃棄された。。行政機関が裁判所の要請を受けて、「法令に反し、著しく公共の福祉に反する」という理由で、宗教法人に解散命令を出した事例は、「オウム真理」と和歌山県に本部があり教団幹部が起こした詐欺事件で有罪となった「明覚寺」の2件である。2件の裁判の記録は東京地方裁判所和歌山地方裁判所で保存されていたが、これらの資料が破棄されていたことが分かった。

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オウム真理教」の解散命令の概要とその課題

まずはオウム真理教について。
オウム真理教麻原彰晃が教祖・創始者として、1987年に結成した団体である。団体は様々の事件を起こす。オウム真理教は「ヴァジラヤーナ」の教えによって他者の命を奪うことを正当化する言説とする。目的を果たすために他者の命を奪うことすら手段として行われた。公安調査長官は1996年7月11日、破壊活動防止法に基づき、公安審査委員会にオウム本団体の解散指定処分請求を行ったが、公安審査委員会は、1997年1月31日、「下時期に、今後ある程度近接した時期に、継続または反覆して暴力主義的破壊活動に及ぶ明らかなおそれがあると認められるに足りるだけの十分な理由があると認められることはできない」という理由に棄却された。
団体は、同決定を契機に拠点施設の再建・拡充や新規構成員獲得に向けた活動を活性化させ、パソコン販売、出版等の事業で得た潤沢な資金を背景に、拠点施設を次々に確保した。これにより地域住民との対立が生じる。1999年12月に「無差別大量殺人を行った団体の規則に関する法律」(団体規則法)が成立した。
これを受けて、公安調査庁長官は、団体規制法に基づき、オウム真理教の本団体に観察処分の請求を行う。2000年1月28日、公安審査員会員会は、オウム真理教に対して観察処分の適用を決定し、2月には破産に伴いオウム真理教という名称が消滅する。
幹部も逮捕されて、2018年には麻原はじめ元教団幹部ら13名を死刑が執行される。
だが、創始者がいなくなっても、「Aleph」の名称を用いた集団、「Aleph」から距離を置く団体、上祐氏が率いる「ひかりの輪」が活動し、現在でも麻原の意思に従いながら活動を行っている。

ジャーナリストの江川紹子は、今回の「オウム真理教」の解散命令請求の記録破棄について批判をこのように批判している。

統一教会の解散命令について考える時、(刑法違反でなければ不可能との見解で)当初の政府見解を縛っていたのは、この判例です。裁判記録には、所管する東京都、また地検がどんなことを主張したかがあったはずで、判断に至る経緯を知る重要な歴史的資料でした」

(中略)

「加害者の刑事記録や破産など被害者関連の事件について働きかけを続けていたが、解散の記録は残せなかった。次の世代に送れなかった、申し訳ないという気持ちです。裁判所は記録を実務の資料と思っていて、史料だという感覚が希薄です。基本を『捨てる』から『残す』にして、捨てる場合にチェックが入るような仕組みを求めます」

引用:統一教会問題で注目される「オウム解散命令」の裁判記録が廃棄 学生の調査報告が話題 - 弁護士ドットコム

今回の「オウム真理教」の解散命令請求 記録廃棄は統一教会の宗教法人を脱法人化や解散請求などの議論をする上で、重要なケーススタディであるが、その議論の積み重ねの検証や参照することができないのは、大きな損失である。

この宗教自由をめぐり、オウム真理教解散命令の時ですら、それが狙い打ち規制ではないかという問題があった。
オウム真理教の起こした事件やその過程や準備を理由に、当該宗教法人を解散させることは宗教法人の信者の信教の自由を侵害するのではないかといいう憲法(思想・良心の自由および信教の自由)の問題点がある。

最高裁の判旨の考えは、解散命令は宗教法人の世俗的側面的側面を対象に、信者が新たな宗教団体の創設や宗教上の行為を禁止することはできず*1、あくまでも宗教法人に帰属する財産を用いて行う宗教上の行為ができなくなるだけである。あくまでも信者者に対しては精神的・宗教的側面に対しては間接的な支障にとどまっている。(安西文雄『第7章 思想・良心の自由および宗教の自由』『憲法読本』(p125) 有斐閣

憲法上、オウム真理教の本団体を解散請求は、①規則目的が宗教団体や信者の精神的・宗教側面に容かいする意図によるものでないこと、②法人格を失わせるという規則の必要性・有効性、③宗教団体や信者の宗教上の行為に対する支障が間接的で事実上のものであること、④手続きの適正も担保されていること、を根拠に、合憲判断が下されている。(安西文雄『第7章 思想・良心の自由および宗教の自由』『憲法読本』(p125~126) 有斐閣

まとめ

昨今話題になっている、統一教会の件も、法人格をはく奪することはあくまでも団体の共有財産を用いて宗教活動をできなくするだけに過ぎない。だが、宗教法人のはく奪は、信仰の自由と結びつき、国家の恣意性による決定ではなく、公的な理由を必要とする。

あれだけ大きな事件を起こしたオウム真理教団体の解散請求の時ですら、その解散させるために憲法に反していないか、その規則目的が、宗教団体や信者の宗教上の自由を阻害していないか、信者が新しく宗教団体を作ることや信仰することを阻害していないか、その手続きが担保、合憲的なものであることなど多様な要素を検討した結果、オウム真理教という名称の団体を解散することができた。

そのオウム真理教の解散命令請求を前例にしつつ、その法的根拠や論点の積み重ねを通じて、統一教会の解散命令請求が妥当であるか否かについて真剣に議論しなければならない。だが、オウム真理教のケースの記録が破棄されたことは、前例にしつつその法的根拠や論点の積み重ねが断絶されたことを意味して、事例が積みあがらない上に、後世の人たちが検証して、当時の判断が妥当であったかを検証できなくなったのは残念といえる。


参考文献
オウム真理教 - Wikipedia
オウム真理教の危険性 警視庁
反社会的な本質に変化のないオウム真理教(警察庁)
オウム真理教の変遷や組織概要 | 公安調査庁
オウム真理教が引き起こした凶悪事件と被害者の手記 | 公安調査庁
安西文雄『第7章 思想・良心の自由および宗教の自由』『憲法読本』 有斐閣 2015年

*1:事実、上祐氏が率いる「ひかりの輪」が活動し、現在でも麻原の意思に従いながら活動を行っているように、信者の新しい宗教団体を創設すること、信仰の自由をとめることはできてない